父が顔彫り手本として途中の段階まで彫ったものを仕上げることになったので、その様子を少し撮影しました。(顔彫り手本なので、顔のサイズも根付ではなく置物の顔と同じくらいの大きさです。)
この作品はマンモス牙なので、象牙にはない難しさがあるようです。また、顔や頭が普通の根付より大きいがゆえの大変さもありますが、動画でご覧いただくには大きくて見やすいかと思います。
今回の動画では、眉の部分と髪の毛を彫っています。下記の解説は、動画をご覧いただく際に助けになるかと思います。
眉の彫り(0:00〜7:48頃)
まず、眉を彫る場所のあたりをつけるため、鉛筆(シャープペンシル)で線を入れています。こういった目安やガイドとなる線は本来、牙角類には薄い墨(多めの水で磨った墨)を用いるのがよいそうです。
墨は乾くと、触っても簡単に消えないですし、材料(牙角類)には染み込まないので彫れば消えます。必要に応じて描き直したり描き足します。
とはいえ墨は磨る手間がかかるので、触ってすぐ消えてもよい場合や安直に目安を描きたい時には鉛筆を用いるなど、父は墨と鉛筆を臨機応変に使い分けています。
なお、墨汁(市販の墨液)は化学薬品が含まれている可能性があるので、父は使わないそうです。
また、材料が木の場合は墨だと染み込んでしまうので父は鉛筆を用いています。
眉は、昔は父も盛り上げて(レリーフのように)彫ってから墨などで着色していました。象牙彫刻では伝統的に行われていたやり方ですが、凸面なので擦れると墨が剥げることがあります。
ある時、眉の部分を彫って(凹ませて)墨などで着色しても、目の錯覚で盛り上がって見え、さらには凹面なので擦れにくいため墨が剥げにくいことに気づき、以後この方法をとることが多いそうです。
とはいえ、奥まったところに顔がある時など、眉が容易には擦れない場所にある場合は、盛り上げて彫ることもあり、その時々で最適な方法を臨機応変に選んでいるとのこと。
この動画では、眉を彫り始めてなんとなく眉の形ができたところをご覧いただけます。
髪の毛の彫り(7:49頃〜30:12)
眉の形がある程度できた後に、生え際を整えています。そして、毛道(けみち)、すなわち髪の毛の大きな流れを示す太めの溝を片切彫りで彫るやり方とそのコツを紹介しています。また、毛の一本一本の線を表現する毛彫(けぼり)とその道具などについても述べています。
この動画で主に用いて言及している小刀は、次の通りです。
8:09頃:神田周水(かんだ しゅうすい)さんから頂いたステンレスの刃の小刀。(動画の中で神田さんは九州の作家さんとしていますが、山口県の方です。失礼しました!)
18:02頃:毛彫に用いる小刀。(必ずしもこの小刀でなければいけない、というわけではなく、いろいろな刃先のものを使用。)
18:11頃:毛彫に用いる小刀。刃がノコギリのようにギザギザになっていて、一度に多くの細い溝が彫れる。
上の小刀の刃先の拡大図。細かいギザギザが1ミリで5〜6本ほどあるようです。
21:18頃:父が開発し、「決めの小刀」と呼んでいる小刀。
刃先だけが切れるようになっていて、溝などを深く彫る時に用いる。
「決めの小刀」と一口に言っても、大きさや形もさまざま。
27:47頃:左刃を使う作家さんは大抵持っているであろう刃の直線的な小刀。毛彫に使える。
駒田牧子